参加者は、過疎地域や被災地、都市部など、全国各地で起きている「くらしの足確保」の問題を抱えている当事者、行政、社協職員、福祉・介護・医療従事者、研究者、バス・タクシー事業者、NPO関係者等、さまざまな職業・立場の方々。その数は昨年の「全国フォーラム」参加者数を上回る214名となり、年を重ねるごとに深まる「くらしの足確保への熱い想い」を感じるものとなりました。また、マスコミ関係者の姿も多く見られ、国会で審議中の交通政策基本法案も関連しての「全国フォーラム」への関心の深さをかいまみました。
今年度の「くらしの足をみんなで考える全国フォーラム 2013」の主な特徴として、①実行委員会(実行委員長:鎌田 実氏・東京大学教授)メンバーの層がより厚くなったこと。②バス・タクシー関係者の取り組みが多く紹介されたこと。③新たな企画としてポスターセッションが開かれたこと、があげられます。 また、鎌田実行委員長は参加者へ配布された資料の「開催に向けて」のなかで、「人口減の超高齢社会に向けては、国の制度なども見直していく必要があります。交通基本法などの議論も進められておりますが、より良い制度設計に向けて、皆で議論し、提案していけるようにしていきませんか」と呼びかけました。
「くらしの足確保」のヒントをさぐって、熱い発表や報告、真剣な意見交換で白熱した3つの会場。参加者一人ひとりの情熱によって充実した一日となりました。 このフォーラムのコンセプトは、「(フォーラムを)継続的に開催し、移動の問題を共有する者たちが『集まる場』として育てていきたい」というものです。会場にお越しくださった皆様に御礼を申し上げると共に、またお会いできる日を楽しみにしています。ありがとうございました。
□主催者・来賓ご挨拶
鎌田実行委員長から開会の挨拶として、「公共交通だけではなく、新しい車両をうまく使って、どう地域の足を確保していくのか? ぜひ今日のフォーラムで皆様と話し合っていきたい」と呼びかけがあった。
次に来賓として二村 博三氏(㈱東京交通新聞社 取締役会長)から、「今日このような会が開催されることに感激・感謝している。ぜひこのような話し合いを続けて、このフォーラムをより全国規模の会にしていただきたい」とご挨拶の言葉をいただいた。
鎌田 実 実行委員長(東京大学教授)
二村 博三氏(㈱東京交通新聞社 取締役会長)
篠原俊正 監事(㈱ハートフルタクシー)
(写真左より)
□基調講演
「公共交通づくりは『おでかけ』の機会を広げる投資であり、『カタチ』ではなく、『しくみ』から創ることが大事。また、現場起点で公共交通の『存在感』を高める改善を図りたい」と発表。 また、人と人の関係をいかに築けるか。「提案力」を高めること、「突破力」が必要であることなどを訴えた。
基調講演2「地域公共交通の課題について」 藤井直樹氏(国土交通省公共交通政策部長)
「交通のみにとどまらず地域全体の問題であるととらえて考えていく必要がある。地域公共交通は一朝一夕にはいかないと思うが、持続と可能性を意識して、関係者が力を合わせて頑張っていただきたい」と述べた。
今回から新たな企画として「ポスターセッション」が行われた。
出展団体は28団体となり、2部屋に分かれてそれぞれに日頃の活動や取組事例について報告・発表。参加者と出展者との活発なやりとりが印象に残る時間となった。
第1テーマ「くらしの足を支える新しいサービス」
(座長:宮崎耕輔氏・香川高等専門学校/アドバイザー:篠原俊正 担当委員・㈱ハートフルタクシー)
・目的:
利用者に歓迎されているくらしの足を支える新しいサービスを紹介し、その評価と水平展開の課題と意味を考え、意見交換した。
・パネリスト:
岩村龍一氏(㈱コミュニティタクシー社長)
「㈱コミュニティタクシーの取組」
及川 孝氏(全国子育てタクシー協会会長)
「全国に広げたい子育てタクシー」
(写真左より)
第2テーマ「過疎地、被災地のくらしの足」
(座長:鳩山紀一郎氏・東京大学/アドバイザー:吉田 樹 担当委員・福島大学)
・目的:
過疎地、被災地のくらしの足を支える取組を紹介し、その評価と水平展開の課題と意味を考え、質疑応答が行われた。
・パネリスト:
道見茂美氏(大正交通㈲社長)
「農村部デマンド型乗合タクシーについて」
石井重成氏(釜石市復興推進本部事務局)
「被災地のくらしの足を考える~岩手県釜石市の取組み~」
西嶋久勝氏(舞鶴市企画管理部企画政策課長)
「地域による自主運行バスの取り組み」
(写真上段左より)
第3テーマ「くらしの足を広げる制度や施策」
(座長:大井尚司氏・大分大学/アドバイザー:河崎民子 担当委員・NPO法人全国移動サービスネットワーク)
・目的:
くらしの足を広げる制度や施策、行政の役割を紹介し、その評価と水平展開の課題と意味を考え、意見交換した。
・パネリスト:
村上強志氏
(奈良県県土マネジメント部次長・交通政策担当)
「奈良県における今後の地域交通のあり方について」
若菜千穂氏(NPO法人いわて地域づくり支援センター)
「公共交通における市町村の苦悩と“みんなでつくる公共交通”のススメ」
嶌田紀之氏(千葉県南房総市総務課)
「地域公共交通会議の活かし方(基礎自治体の取組)」
(写真上段左より)
□報告、等
午後の全体会では、テーマ別セッションのそれぞれの座長が登壇。
各部屋で展開された発表・話し合いについて要約の後、座長としての意見や考えをそれぞれ報告した。
まず、第1テーマ「くらしの足を支える新しいサービス」について宮崎座長は、
「心のバリアをどうするか? アンケートなどではぜったいに出てこない声、ニーズ、移動に関するニーズをどう引き出して来るかがポイントだと思った。そこを一緒に考えて新しい試みを行って行こうという話し合いになった」と報告。
第2テーマ「過疎地、被災地のくらしの足」について鳩山座長は、
「金ではなく、力をいかに注ぐか。そして、力を注ぐだけでなく、行政と住民の間でその仕組みをつくることが大事。またコミュニケーション空間としてのバスあるいはタクシーという意識が成功への秘訣かもしれない」とコミュニケーションの重要性について報告した。
第3テーマ「くらしの足を広げる制度や施策」について大井座長は、
「『戦略、戦術』が大きなキーワードとなった。戦略とは何か、戦術とは何か? また、人が大事であり、その人をどうやって育てていくか。サポートをどうやっていくか。日々どうやって食べて行くか。これらの議論の過程において、現場を見る。数字を見る。数字を“見える化”することが大事だと思った。最後に、制度を使うことでどういううまみがあるかを認知する仕掛けが必要という話になった」と報告した。
・第1テーマ
「くらしの足を支える新しいサービス」座長:宮崎耕輔氏(香川高等専門学校)
・第2テーマ
「過疎地、被災地のくらしの足」座長:鳩山紀一郎氏(東京大学)
・第3テーマ
「くらしの足を広げる制度や施策」座長:大井尚司氏(大分大学)
清水弘子 監事(NPO法人 かながわ福祉移動サービスネットワーク)
(写真左より)
つづく白熱討論の時間では、鎌田実行委員長のコーディネートにより三者の意見交換が行われた。
まず小嶋光信氏(地域公共交通総合研究所理事、両備グループ代表・CEO)が「地域交通の再生とまちづくり」について発表。「国民が本気で移動の問題を考えなくてはいけない時期になってきたことを実感している」と述べた。
次に加藤博和副実行委員長(名古屋大学准教授)が「そもそも必要な公共交通とはどのようなもので、どのように支えていけばいいかについて、地域でまともに話し合ったことがないのでは?」と問題提起。「公共交通確保維持改善 5つの鉄則」を発表し、会場内から共感の拍手を得た。
また、鎌田実行委員長の「今後、どのようなゴールをめざしていくか?」という質問に対して加藤副実行委員長は、「事業者もやる気を出さなくてはいけない。勉強会で終わるのではなく、問題解決のために行動しませんか? 今日のこの会は“行動するための勉強会”だと思う」と提案。
続いて小嶋氏が「これからどういう日本をつくっていくのか。心豊かな日本をつくりましょう」と、「移動の問題」と積極的にかかわり、本音で語り合っていくことが日本全体にとって重要であると呼びかけた。
小嶋光信氏
(地域公共交通総合研究所理事、両備グループ代表・CEO)
加藤博和氏(名古屋大学准教授)
鎌田 実氏(東京大学教授)
(写真左より)
□全体のまとめ、閉会の挨拶
全体会の最後に副実行委員長の加藤博和氏から、まとめおよび閉会の挨拶。「だれでもたのしく『おでかけ』できることを当たり前とする公共交通を自分たちで『つくり』『守り』『育てる』ことこそ本流では?」と提案した。
また、「閉塞した住民・地域に公共交通と地域づくりを提案し、巻き込み提案することこそが、地域、日本を救うきっかけになる」と力強く発言。会場は熱い想いを分かち合い、閉会となった。
・時間と場所がもう少しあればもっと深い議論ができたと思います。このメンバーでもう一度実施して欲しいと思いました。(テーマ別セッション)
・地域に交通網を策定していく基本やポイントについて話をうかがえるとありがたいです。(その他)
・スペースが少し狭くて、移動に不便でした。できれば発表作品をHPに載せていただくなどしていただくとありがたいです(カラー版ができれば、ほしいです)。(ポスターセッション)